2011年1月26日水曜日

1月25日    またまた後悔

 これはすでに「忘れたい過去」に属する出来事だ。だが、記録としての質を保つために書かなければならない。
 いっこうに脚のよくならないぎんを別の獣医に連れて行った。これまの医師は、できの良くない二代目が高い金を払ってようやく私学の獣医学科を出たという感じ。体育会系で威勢はいいけど、知性派の客には向かない人だ。こんどの獣医は院長と副院長が東大獣医学科、もう一人も国立大の出身ということで、これまでとは違う獣医療が期待できそうだと思ったが、結論から書こう。

期待はずれだった。
 
東大とちがう国立大の先生が担当となった。脚を触診。するとぎんが手に噛みつこうとした。そしたら「うわっ」とあわてて手を引っ込めた。その姿が小学生ぐらいの子どものようで情けなかった。
それでエリザベスカラーをつけられてしまった。診察室を歩かせて様子を見るが姿勢の低い探索歩きでうまく脚の悪さがわからない。カラーがついているからちゃんと歩けないし。
  
 エックス線を撮ったが骨に異常はなし。細い骨盤のくぼみに、小さな大腿骨が、ぴったりはまっているところがかわいらしい。膝関節も妙なところはない。ただ腸には便がぎっしり詰まっている様子が映っていた。

 医師は「異常がないのでどうしたらいいのかわからない。お腹が張っていて動きがヘンなのかも知れないということしか思いつかない。便を掻き出したみてたらどうか」という。便を出したらすっと歩けるようになってぎんも私たちも幸せ……なんてことになったらどんなにいいか。心の底で本当はそんな可能性はゼロだよこのヤブ医者!と考えながらも、もしそうだったらどんなにいいか、という現実逃避の誘惑に負けてしまった。「おねがいします」と言ったことをどんなに後悔しているか。
 
 待合室まで響き渡るぎんの悲鳴が聞こえた。ああ、しまった、と思った。
診察室に呼ばれると、ペットシートの上に、血の混じったわずかな便がのっていた。これだけしか出ませんでした。血は暴れたときに腸が傷ついたからで自然に治るレベルだと思います。「思います」ってあんた無責任な。かわいそうなぎんは足元に置かれたケージに静かに横たわっている。許してくれ。

 連れて帰って腹を揉んでやったら、少しだけウンチをした。でも血液混じりの粘液も出た。

 すこし部屋を歩いて床に横たわったぎんは、眠そうに目を閉じて動く元気もないみたいだ。そろそろ出社しないといけないので体の下に手を入れて持ち上げた。実を捩って四つんばいになるかと思ったら、ぎんは体を硬直させたまま。横になった姿勢のまま持ち上げられた。意外な形で支えたその体は、鳥の死がいのように硬くて軽かった。ぎんの僅かな重みが手を伝わり、悲しみとなって胸の中に流れ込んできた。

0 件のコメント:

コメントを投稿